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映画の復元について

劣化フィルム=ナイトレート・フィルムの場合

プロジェクトを始めて半年ほど経った頃(2003年)、劣化の激しい2缶の35mmフィルムが寄せられた。『高雄消防出初式』と記された昭和初期(1920年代後半)の台湾での実写フィルムだった。

1巻はすでに劣化が進み、ベースも乳剤も溶けて、フィルムをはがす事ができない状態だった。もう1巻は、中心部から丁寧にはがして行くと200フィートほどは巻き取ることができた。救えたフィルムは、すぐにラボ(現像所)での復元作業に入った。救ったものの画像が消えたロールと、コアに巻いた残りの劣化フィルムは、新しいフィルム缶に入れて保管しておいた。

(残念だが、当時の状態を写真に撮らなかったため、画像が残っていない。)

(この写真は別種)

同様に劣化したフィルム。ベースや乳剤が溶けている。ここまで来れば復元はできない。『高雄消防出初式』も同様の状態だった。

『高雄消防出初式』の救えた映像

救えた映像は、第2巻目のラスト。出初式の場面ではなく、火災の危険性や消防の教訓などが語られている。ベースが溶け、乳剤が剥離している箇所など、映写して見ると、映像はゆがみ、フィルム自体が燃えているように見えた。

この段階で、劣化したフィルムを4種のロールに分かれた。

A 完全に劣化した1巻
B コアに巻き半分ほどが劣化し、新しい缶に入れたロール
C 画像が消えた小さなロール
D そして、復元できたロール。(別缶に入れて、冷蔵庫に保管した)

ナイトレート・フィルムは49℃で発火すると言われている。(「映画技術」10号1950年刊)。消防法でも危険物に指定され、「不燃化を終えたナイトレート原版は廃棄すべき」と指導されてきたため、そのサンプルすら残っていない。

劣化がどのように進行し、消滅して行くのか。それを観察することは、このプロジェクトの一つの課題であると考えた。
缶入りのまま新しいフィルム缶に入れ、個別のビニール袋に包んで保管することにした。部屋は、年間を通じ20℃前後の状態に保っている。
(当プロジェクトでは、専用のフィルム保管庫を持っていない)

1年ほど経った頃、ビニール袋を開け、フィルムの状態を見て愕然とした。

以下の写真が、2004年当時の状態である。

A①  B②  C③

① 鉄缶を溶かし、腐食した鉄粉がフィルム全体に付着し、テラミスのような状態になった。
② 新しい鉄缶の内部が錆だし、鉄サビがフィルムに付着し出す。
③ 少しは鉄粉が付着しているが、フィルム自体はそれほどの変化はない。
※ フィルムから、硝酸ガスが出て、鉄缶を溶かしている。鼻を突くような硝酸臭がする。

 

2005年

A④  B⑤ C⑥

④ 缶自体を新しいフィルム缶に入れたが、新缶内部に綿埃のような錆が全体を被うようになり、缶の蓋が開かなくなった。
⑤ 酸化が進み、内部の鉄を溶かしている。
⑥ それほど大きな変化は見られなかった。
※ 全体に、硝酸臭が強くなってきた。

 

2006年 (この間、部屋の移転があった)

A⑦ B⑧ C⑨

⑦ 綿埃は落ち、鉄の粉が剥げ落ちる。もちろん、缶の蓋は開かない。
⑧ 腐食が進み、新しい缶の表まで腐食が進んでいる。
⑨ 少しは腐食が進んでいるが、極端な変化は見られない。

 

2007年

A⑩ B⑪ C⑫ D⑬

⑩ 完全に鉄缶を腐食させ、缶票の下や底は溶けて貫けてしまった。
⑪ 少し濃い部分は湿っている。水分が何なのか分らない。新しい缶の底を溶かしてしまった。プラスチック・コアは変化していない。
⑫ 小さなロールなので、ガス濃度が上らないためか腐食は進行していない。
⑬ 救えた筈のフィルムも劣化し出した。気泡が噴出してきている。中央の黄色い保護リーダーは、トリアセテート製フィルムで溶け始めている。

 

2008年

A B C D

〔観察の結果〕
○ ナイトレート・フィルムは鉄缶に入れての保存はいけない。
○ 密閉させてはいけない→硝酸ガスの濃度を上げることになる。
○ 保護リーダーや修復にトリアセテート・フィルムを使ってはいけない。
○ 硝酸ガスは、アセテート・フィルムへの劣化(ビネガー・シンドローム)を促進する→ナイトレートにアセテート・フィルムを近づけない。
○ 紙(新聞紙)などが入っていると意外と進行が遅い。フィルム保管には紙箱か木箱、プラスチック・ケースが適していると言える。
○ 本プロジェクトでは、劣化の進行を速めるため、密封した状態においているが、通気が良ければ、劣化を遅くする事になるかもしれない。
○ 95年前のオリジナル・ネガ(原版)フィルム(劣化していないナイトレート・フィルム)が残存している。

『祇園の山鉾』大正2(1913)年撮影。
17.5mmネガ・フィルム(原版)